鍵のない図書館

好きな食べ物はバナナのパウンドケーキ

残り香と風

 

忘れている匂いを、ふとした時に想い出すことはない?

その匂いに触れた時「ぁ、これはこの人の匂い。これはあの時の匂い」

などと記憶の引き出しを開けて、思い出すことがあると思う。

 

私も言うに及ばず、ちょっとした場所や景色などを見ると

ここはあの人と行った場所、この景色はアルバムにはもうない。

そんな私しか拾わないことを、想ったりする。

 

これを「残り香」という。

 

何度拭いても、消えない匂い。

こびりついていて、落とし方を知らない。

いつまでも残り、記憶の引き出しを開け続ける。

 

忘れられない恋や、記憶、痛みとも言える。

そしてこの残り香が、いちいち、しつこく私の心を揺らす。

いない人をねだり、終わったことをいつまでも思い出させてくる。

 

このことになにも意味はない。

同じものを見て、同じ世界に生きていた事実が

路肩に咲く名も知らぬ花のように、風に吹かれて揺れている。

 

その花を見た時、私はこの名前すらない花が

これから風に揺られて散るのか、風に乗ってあなたの元へ届くのか、想いを馳せる。

確かに私たちは同じ大地に立っていた、隣通し未来を見ていた。

 

その未来はまだ、誰にも分からない。

缶珈琲「BOSS」のような文章

 

世の中には様々な仕事がある、ここには書き切れないほど多く。

諸君、今日もお仕事お疲れ様である。

「褒める」ということが、なくなりつつあると思っている。

 

私たちは一体、何故ここまでして、必死に働いているのだろうな。

誰のために、誰かのために、なにかのために。

私は明確な答えを持ち得ないが、みな頑張っているということを知る。

 

お疲れ様である。

私たちは偉い、我慢して、堪えて、耐えている。

人間にも、物事にも、限界がある。

 

昨日も、今日も、そして明日も働くのだろう。

たいして好きでもないのに、夢でもないのに、本当に偉い。

実に難しいとは思わないか、そんな人間が集まって働いているのである。

 

たまったものではない。

ネタを転がして叩きつけて投げ飛ばして

・結果、なにもない。

 なにもないのである、筆者の頭の中の僅かすぎる空想力が刹那に消えた。

始めから分かっていたことではあるが、本日はネタがない。料理する食材もない、筆者の頭は空である。ネタを投げ飛ばした挙げ句、自分では手が届きそうもない所に行ってしまった。情けない、笑うといいぞ。筆者も笑おう、そしてないものはない。否定は受け付けぬ、肯定が可及的速やかに必要である。

 

白紙に描く、自由の色

 

ただそこにあるべきものがあり、ただそこに白紙の空間がある。

なにもない、0からなにかを始め、生み出すことはとても難しいと思う。

0から1を生み出す人もいれば、5を生み出し、10を生み出すことができる人もいる。

 

私たちは白紙から、空白に描く、そこに生まれる文章。

白紙から生まれる恋、繋がる愛、描いた命。

白紙を見る、なにを描き、なにを想う。

 

誰も見たことがない、誰も知らない、誰もいない所。

例えばあなたがそれを目にした時、白紙の空間がそこにはある。

なにをするのもあなたの自由、そこになにかを付け加えるのも、人の世に晒すのも。

 

白紙は自由、それが自由の香り、そこでなにをする。

 

すべてがあなたの自由、誰にも、何者にも囚われない。

階段

 

緩く眼が覚める、置き時計を見るとa.m.2:00を少し過ぎる所だった。

その日の夜はやけに生暖かい、額にじんわりと汗をかいていたのが分かる。

暑さに沈む寝室、そよがないカーテン、冷えたお茶を飲もうとリビングへ下りる。

 

.....階段を下りる、下りる、下りる。その時、私はこれが夢なのではないかと思う。

階段が終わらないなど、起こり得ないからである。何段も何段も何段も、同じ階段を下りている。果たして下りているのだろうか、同じ所で足踏みをしているだけではないかと思ってしまう。

 

この階段はどこへ続いている、その先は真っ暗で、夜の底へと誘う。

人が見てはいけないなにかが、あるのではないか。これ以上下りてはいけないと、体が声を上げていることに気付く。私はなにか、鬼気迫るものを肌で感じる。

 

「うぅ...」という低い呻き声が聞こえたその時、ドンッと物が落ちるような音がする。

 

リビングのドアが僅かに開いている、私はドアノブに手を掛ける。

静かにドアを開け電気を付けると、そこにはいつものリビングが広がっている。私は階段を普通に下り、リビングへ辿り着いたのである。自分に寝ぼけているのだと、そう言い聞かせよう。

 

胸を撫で下ろし、お茶を飲む。リビングを出ようとした時、急に電気が消える。

私は驚いて、急いで寝室へ戻ろうとすると、何故だろう。まるでスローモーションのように体が言うことをきかない。背後から誰かが近付いて来るのが分かる、早く逃げなければと精一杯体を動かすけれど、動きが遅い。鼓動が高鳴る、階段を誰かが下りてくる音がする、そして私はぐいっと後ろ髪を引かれてしまう。

 

.....眼を開けると、私は寝室のベッドで寝ている。

思わず溜息をついて、鼓動を整える、とても嫌なことが起きたようだと思う。

時刻はa.m.2:00を少し過ぎる所。

 

ふいに枕を見ると、見たこともない真っ黒い枕の上に、大量の髪の毛があった。

 

夏の人

5時の鐘が鳴ったのを聴いて空を見上げたら、赤く染まっていた。

今日は一日ずっと遊んでいた、「またね」といって帰る友達。

明日が来ることに、明日が晴れることに、なにも疑いがない。

 

家に帰ったら、土が付いた手を洗って、ご飯ができている。

「ただいま」と声が聞こえて、お父さんが帰ってくる。

家族が揃うと、晩ご飯の香りが強まった気がする。

 

TVから野球中継の音がする、麦酒を開ける聞き慣れた音。

窓からは夕暮れの匂いが、カーテンにそよいで入ってくる。

ぼくは昨日も、今日も、明日も外で遊ぶ。

 

ふいに土埃の香りがする、汗をかいたぼくから。

一日楽しかった、水筒と虫とり網を持って。

「満足」とはああいうことを言うんだろう、きっと。

 

ぼくは今も想い出す、夏の寝苦しい夜のことを。

家族で寝て、ぼくだけ入道雲に起こされる。

目が覚めると、みんなよく眠っていたっけ。

 

窓から月明かりが差し込んでいて、夜風が静かに踊っている。

扇風機が小さく回っている、重く機械的な音だけが、そこにある。

そのひとときだけ、長い時間の中で、そのひとときだけが。

 

すべてが計算機のように、幻のように、とてもほろ苦くて甘かった。

山道

・これは夜更けに、ある山道を通っていた時のことである。

季節は初夏、夜を涼しいと感じるようになった頃。その日は一日車を走らせていたのだが、やけに動物の骸が多かったように思う。見る度に、胃の底に重い鉛があるような気分になる。

 

しばらく峠を走らせていると、前方に車が一台、走っているのが見えた。SUVのような気がする、見えたり見えなかったりするものの、少しずつ近付いていたようである。街灯が無いために、ブレーキランプの灯りは分かりやすかった。

 

そうして走らせていると、あっという間に追いついてしまう。

.....長い直進に入る、車が揺れる音がする。少し開けた窓から、風が手を入れる。前方の車のブレーキランプが、点灯する。頭の中で逡巡する「どうして、なにもない、譲ってくれる」その答えは以外なものだった。

 

右折のウィンカーを出し、なにかをかわすようにして動いたのである。だが後ろから見る限りでは、そこにはなにもない。何をかわしたのか、分からない。同じ場所を走らせたが、かわすようなことはなかった。

 

辺りは森の中、木々で月明かりが遮られているため、ライトを消したらなにも見えないだろう。気味を悪く思ったその時、突然ブレーキが踏まれる。私も慌てて急ブレーキを掛けるが、なにかに乗り上げるような音がする。

 

.....ゆっくりと眼を開けると、前方の車に微かに衝突していたが、可笑しい。

そのSUVは、まるで何十年も放置されたように年期が入っている。枯れ葉を被り、所々に蔦が絡まっている。車内は埃を被り、後部座席にはチャイルドシートが見える。私は一気に気味が悪くなり、血相を変えて車を下がらせ、道を戻る。

 

すると先程、SUVがなにかをかわした所に差し掛かる。

路肩には家族だろうか、三人ほど暗闇の中で立ち尽くしている。

私は突き刺すような視線を感じる、額を汗が伝わり、今にも吐きそう。

 

決して眼を合わせず通り過ぎる、異常なものを感じていた。

鼓動が落ち着いて来た頃、ようやく随分と離れることができたようである。

.....ふとルームミラーを見ると、後部座席に誰か乗っている。

 

◇後書き

夏に差し掛かって来たので、少し肝が冷えるようなものを書こうと思ったわけです。

書きながら、私自身気分が悪くなってきてしまいました。

雨宿りの秘密基地

・さて、季節は梅雨になりました。

 

雨が降る空の下には、いつも秘密基地がある。

誰かが雨の下で、こっそりと雨を楽しんでいる。

子供の頃、傘を持ち出して、皆で作った秘密基地。

 

僕たちは大人になっても、雨が好きでいたい。

雨の音は落ち着くけれど、独りが多い。

雨上がりの夕空、じめっとした匂い。

 

僕の心の中にある秘密基地は、まだ誰にもバレちゃいない。

悪い奴は来ない、そこで友達と今日の予定を立てる。

疲れるほど遊んだら、家に帰ってご飯を食べる。

 

僕は所謂、大人になったのかも知れないけれど、僕はまだ秘密基地にいる。

 

 

 

◇後書き

雨ばっかりですね。

Xの交差点

 

 「すべての道は繋がっている」たまに思い出す一文である。

交差点を歩く人、その一人一人に道がある。決めた道、決められた道。別れた道、隔たれた道。みなそれぞれの道を歩き、躓いたり転んだりしている。私は思う、今そこを歩く君は、自分の選んだ道に頷けているのだろうか。

 

 私にはそれは分からない、頷けてない人も必ずいる。日常に迷いながら、社会と戦いながら歩く人もいるだろう。例えばその道が正しいのか、正しくないのか。案じることはない、すべての道は、必ずどこかと交わる。それは君が意図せず、偶然かも知れなければ必然かも知れない。

 

 そこで気を落ち込ませることはない、悩み抜いた選択が、意図しなかった結果が、そのすべてがどこかに繋がる。或いは人、或いは過去、或いは未来。なにも心配する必要はない、すべての道は繋がっているのだから。