忘れている匂いを、ふとした時に想い出すことはない?
その匂いに触れた時「ぁ、これはこの人の匂い。これはあの時の匂い」
などと記憶の引き出しを開けて、思い出すことがあると思う。
私も言うに及ばず、ちょっとした場所や景色などを見ると
ここはあの人と行った場所、この景色はアルバムにはもうない。
そんな私しか拾わないことを、想ったりする。
これを「残り香」という。
何度拭いても、消えない匂い。
こびりついていて、落とし方を知らない。
いつまでも残り、記憶の引き出しを開け続ける。
忘れられない恋や、記憶、痛みとも言える。
そしてこの残り香が、いちいち、しつこく私の心を揺らす。
いない人をねだり、終わったことをいつまでも思い出させてくる。
このことになにも意味はない。
同じものを見て、同じ世界に生きていた事実が
路肩に咲く名も知らぬ花のように、風に吹かれて揺れている。
その花を見た時、私はこの名前すらない花が
これから風に揺られて散るのか、風に乗ってあなたの元へ届くのか、想いを馳せる。
確かに私たちは同じ大地に立っていた、隣通し未来を見ていた。
その未来はまだ、誰にも分からない。