花は良いなと、より思うようになった。 足音のしない店内に、花の命を感じた。 深い眠りから私を覚ましたのは、誰かが差し伸べた、温かな手だった。 眠りの底に着いたとき、お日様の香りがした。 「もうすぐ花が咲くね。」という、誰かの言葉が聞こえる。 私…
夜更けにも関わらず、誰かが音楽会を開こうとしている、そんな気がした。 そよ風に乗せられて、運ばれて来た夜の香りは、寝室を客席へと一変させる。 寝苦しいとは思わなかった、ただ昔からある扇風機の音だけが、僕の耳へ届いた。 まるで夏祭りの後、そこで…
新居とも見て取れない、だけど懐かしい香りを感じる一軒家。 空が赤トンボと同じ色に染まってきた時、僕は小さな小窓から中を伺う。 陽に照らされた室内には僕の影が一つと、地平線に沈む陽が一つ。 僕は今でもこの景色を思い出して、この景色を見つめている…
あの暗がりに或る扉の向こう側、そこには何が或るのだろうか。 月の裏側か、空の裏側か、心の裏側か。 「夜」はまだ覚めぬ、覚醒した世界へと繋がっていると思う。 海面に揺れる朧月と、月を目指す竜の鱗。 その甘い海の中を、儚げに溺れていく少女。 深い海…
見覚えのある背中を追うようにして、慌てて煙草を消し、店内へ入る。 商品棚の間から顔を覗かせるも、それらしい姿はどこにも見当たらない。 諦めて缶麦酒をレジへ持って行こうとしたその時、その背中は店内を出る所だった。 「待て」と車に乗る所へ、声を掛…
季節外れの暑さに、春は砂糖菓子のように溶けていく。 もし言葉に手足が生えていたら、重力に逆らって、心まで届くだろう。 春の終わりか、夏の始まりか、知らせるように鳴くカエルの合唱が届く。 景色を、光の線のような残像で捉える。 果てしない道を見る…
沈んで来た所が丁度、海の底だった。 誰かを呼ぶように泣く子供の泣き声が、まず耳に届く。 次に、足元で秒針を刻む、昔からある時計が目に付いた。 静寂が仁王立ちをし、暗雲の向こうから泣き声は聞こえる。 まるで四方を壁に囲まれているように、息苦しい…
缶珈琲を飲み終わった後、煙草を吸い終わった後、美しいことを見た後 瞳の奥に小さな灯火を携えて、一歩を踏み出す時 その一瞬だけ、自分を好きになれる。 ○か✕か、分からないまま歩み進めてきた今 私の目の前にはようやく、大きな観測所が現れた 未来と過去…
私は今、耳を澄まして聞こえることを、空を見上げて思うことを。 内側から迫り上がる声を、外側へ響かせている。 なにもないな、なんて、顔色を伺うように空を見て。 私の中に否応なく侵入してくる物事に、定義と意味をつけて。 いるものと、いらないものに…
かの船はかつて世界中の海を旅していた、大いなる自由の船らしい。 ゆきたい場所へ舵を動かし、風が吹く方角に帆を張る。 陽が沈む向こう側を目指し、そして全てを知り得た。 世界の成り立ちを理解した時、言葉をなくした潜水士は海へ飛び込んだ。 そこから…
知らない言葉が重く、海の底に横たわる。 酷く古い言葉、海藻や珊瑚が張り付いている。 誰にも伝わらずに届かなかった言葉が、息を潜めている。 そのむかし、ここは欲望と快楽と探求が渦巻く街だった。 それも過去のこと、今となっては私と残された言葉たち…
流れ着いた小さな島、椰子の木がぽつんと塩風にそよいでいる。 砂浜は陶器のように白く、そしてどこか温かい色を持つ。 辺りは海に囲まれていて、それ以外はなにもない、あってはならない。 私が目を覚ました時、まず海の香りが鼻に付いた。 ずぶ濡れの体を…
見えないもの、捉えられないもの、手から零れ落ちるもの。 実体がないもの、感覚が乏しいもの、波のように揺れるもの。 掴んで、零して、また掴む。 君はどう掴む、握り締めるのか、抱きしめるのか。 確実に掴んだと手を握り締めた時、それは嘘かも知れない…
かつてこの地で、かの惑星による大戦があったらしい。 ぼくは今、火星の荒野に立ち尽くしている。赤く焦げ茶の大地には、ごろりと石が転がり、目の前には大きく城壁のような砦が構えている。その城壁を囲むように配置されている、見たこともない大きな戦車。…
私事ではありますものの、この度、読者登録が「100人」を迎えました。 いつも立ち寄っていただいている、どこの誰かも分からぬ皆様、ありがとうございます。 なんのまとまりもない文章に目を通していただいて、嬉しいです。 私も訪れられた方のBlogには、で…
塞き止める、僕は今、水の中にいる。 ちっとも苦しくはない、そこで水が外へ溢れ出すのを防いでいる。 ここは教室、いわゆる高校生、先生...先生...先生。 沈んだ教室に小魚の群れが来る、地震のように揺れる。 そこに大きなシャチが来る、あるすべてを平ら…
夕暮れを顔に滲ませながら、疲れた顔で帰る人々。 少しホッとしただろう、一日が何事もなく過ぎて。 夜ご飯はなににしようか、インスタントでもいい。 急ぎ足で歩く人、肩を落としながら歩く人、怒りながら歩く人。 僕らはよくやっているはずだ、我慢は続か…
星空の歩き方を知っているか、手鏡を持ってくるといい。 それを目元に当てると、君の眼下に広がる宇宙。 あっという間に大気圏を越えて来た、君は今、無重力。 ごちゃりとした社会を抜け出して、地球を越えて、空を飛び越えた。 そして君は今、宇宙を歩きに…
スーパーで花火を買った後、汗を拭いながら駐車場へ歩く時だった。 「僕、パンク・ロックが好きだ」 「中途ハンパな気持ちじゃなくて」 「本当に心から好きなんだ」 喧騒をぶち壊して爆音が響く、車から響いているようだが姿は見えなかった。 あの一瞬が、そ…
人参のスープとタコライス、どちらもとても美味しそう。 スープからはほのかに湯気が立ち昇り、タコライスからは焼きチーズの香りがする。 僕はこの二品を頂くことにした、窓の外ではまだ雨が降っているよう。 静かに雨音を耳にしながら食べ進めていると、精…
大通りから脇道に抜けると、喧騒は遠のいた。 人混みを離れ、森の香りが漂ってくる小道を進む。 雨上がり、雨粒が滴る小人の道を抜けると、妖精が訪れるような珈琲店がある。 木々に囲まれたその店は、人間界を抜け、どこか異国へ通ずるような佇まいである。…
ふとした時に考える、私たちは何故、感情を感じるのか。 楽しいと笑い、悲しいと泣き、怒られると落ち込む。 それがすべてではなくて、人によって捉え方は異なる。 なにかに共感し、同情し、共有する。 大学生の時、「人間は独り」と語っていた教授の言葉を…
霧の掛かった峠を抜けると、そこには見たこともない大雲海が広がっていた。 山頂から見下ろす眼下には、雲海が広がっている、時刻は24時を少し回った所。 なみなみとした雲が月明かりに照らされて、ゆっくりと流れて行く。 私はそれを見て、綿あめを嬉しそう…
「機動隊」と「カップラーメン」と「人情」 どうだろう、この三つのワードを書いただけで、そこには「ドラマ」があると思わないか。 今回は読者の想像力に委ねよう。 ※ 後書き ネタがないだけです、絞り切った残りカスみたいな文章です、許して下さい。
暑いな、実に暑くはないか。これから今日よりも、一層暑くなると考えると気が滅入る。「夏」という季節には、様々な言葉が当てはめられる。青春、恋人、花火、列車、入道雲.....四季があるとは言えども、やはり人生を象徴するようなものが紛れる季節である。…
それはまるで、飴色の角砂糖のよう、触れるととろりと溶けてしまう。 水が張られた田んぼの中を、静かに走る電車、車窓から朝日と同じ色が零れる。 三両編成で、如何にも秘境を走っていそう、秘密の街へと辿り着く。 夜の香りが立ち込める、すぅーっとする優…
最近は自宅で過ごす機会が多いと思う。 君は家にいる時、パジャマか部屋着を着るだろう。スーツのようにびしっとせず、仕事着のようにしっかりせず、私服のように見栄えを気にする必要がない。 .....伝説のパジャマを知っているか。 なにやらそれを着ると、…
・怪談になります その日は友人と遊んだ帰り道だった。 すっかり陽が暮れて、辺りはもう暗い。けれど車内にエアコンを効かせていないと、まだ蒸し暑い。私は助手席で、夜に沈んだ街を眺めている。山に囲まれた街、山と山との間にこの街はある。不気味に窪ん…
雨も嫌われたものだと思う、降りたくて降っているわけじゃないだろう。 あの透き通った空は、絵本の中に閉じ込められている。 隠された晴れ間の空、誰かがその本を見付けた時、頁を開いた時に空は晴れる。 かつて海に沈んだ船のように、横たわる空。 そこに…
忘れている匂いを、ふとした時に想い出すことはない? その匂いに触れた時「ぁ、これはこの人の匂い。これはあの時の匂い」 などと記憶の引き出しを開けて、思い出すことがあると思う。 私も言うに及ばず、ちょっとした場所や景色などを見ると ここはあの人…