詩
流れ着いた小さな島、椰子の木がぽつんと塩風にそよいでいる。 砂浜は陶器のように白く、そしてどこか温かい色を持つ。 辺りは海に囲まれていて、それ以外はなにもない、あってはならない。 私が目を覚ました時、まず海の香りが鼻に付いた。 ずぶ濡れの体を…
見えないもの、捉えられないもの、手から零れ落ちるもの。 実体がないもの、感覚が乏しいもの、波のように揺れるもの。 掴んで、零して、また掴む。 君はどう掴む、握り締めるのか、抱きしめるのか。 確実に掴んだと手を握り締めた時、それは嘘かも知れない…
塞き止める、僕は今、水の中にいる。 ちっとも苦しくはない、そこで水が外へ溢れ出すのを防いでいる。 ここは教室、いわゆる高校生、先生...先生...先生。 沈んだ教室に小魚の群れが来る、地震のように揺れる。 そこに大きなシャチが来る、あるすべてを平ら…
夕暮れを顔に滲ませながら、疲れた顔で帰る人々。 少しホッとしただろう、一日が何事もなく過ぎて。 夜ご飯はなににしようか、インスタントでもいい。 急ぎ足で歩く人、肩を落としながら歩く人、怒りながら歩く人。 僕らはよくやっているはずだ、我慢は続か…
星空の歩き方を知っているか、手鏡を持ってくるといい。 それを目元に当てると、君の眼下に広がる宇宙。 あっという間に大気圏を越えて来た、君は今、無重力。 ごちゃりとした社会を抜け出して、地球を越えて、空を飛び越えた。 そして君は今、宇宙を歩きに…
霧の掛かった峠を抜けると、そこには見たこともない大雲海が広がっていた。 山頂から見下ろす眼下には、雲海が広がっている、時刻は24時を少し回った所。 なみなみとした雲が月明かりに照らされて、ゆっくりと流れて行く。 私はそれを見て、綿あめを嬉しそう…
それはまるで、飴色の角砂糖のよう、触れるととろりと溶けてしまう。 水が張られた田んぼの中を、静かに走る電車、車窓から朝日と同じ色が零れる。 三両編成で、如何にも秘境を走っていそう、秘密の街へと辿り着く。 夜の香りが立ち込める、すぅーっとする優…
最近は自宅で過ごす機会が多いと思う。 君は家にいる時、パジャマか部屋着を着るだろう。スーツのようにびしっとせず、仕事着のようにしっかりせず、私服のように見栄えを気にする必要がない。 .....伝説のパジャマを知っているか。 なにやらそれを着ると、…
雨も嫌われたものだと思う、降りたくて降っているわけじゃないだろう。 あの透き通った空は、絵本の中に閉じ込められている。 隠された晴れ間の空、誰かがその本を見付けた時、頁を開いた時に空は晴れる。 かつて海に沈んだ船のように、横たわる空。 そこに…
忘れている匂いを、ふとした時に想い出すことはない? その匂いに触れた時「ぁ、これはこの人の匂い。これはあの時の匂い」 などと記憶の引き出しを開けて、思い出すことがあると思う。 私も言うに及ばず、ちょっとした場所や景色などを見ると ここはあの人…
ただそこにあるべきものがあり、ただそこに白紙の空間がある。 なにもない、0からなにかを始め、生み出すことはとても難しいと思う。 0から1を生み出す人もいれば、5を生み出し、10を生み出すことができる人もいる。 私たちは白紙から、空白に描く、そこに生…
5時の鐘が鳴ったのを聴いて空を見上げたら、赤く染まっていた。 今日は一日ずっと遊んでいた、「またね」といって帰る友達。 明日が来ることに、明日が晴れることに、なにも疑いがない。 家に帰ったら、土が付いた手を洗って、ご飯ができている。 「ただい…
・さて、季節は梅雨になりました。 雨が降る空の下には、いつも秘密基地がある。 誰かが雨の下で、こっそりと雨を楽しんでいる。 子供の頃、傘を持ち出して、皆で作った秘密基地。 僕たちは大人になっても、雨が好きでいたい。 雨の音は落ち着くけれど、独り…
「すべての道は繋がっている」たまに思い出す一文である。 交差点を歩く人、その一人一人に道がある。決めた道、決められた道。別れた道、隔たれた道。みなそれぞれの道を歩き、躓いたり転んだりしている。私は思う、今そこを歩く君は、自分の選んだ道に頷け…
心を此処に置いて行け、ぼくがその心を海へ持って行く。 海の底へ優しく引き込む、まるで誰かの手を取るように。 ゆわりと砂が踊る、地に着いたら塩の匂いが香るだろう。 すぅっと喉を水が通るように、心が海へ落ちて行く。 ぷくっと金魚が泡を吹くように、…
眠りの中、身体と精神が離れる時、僕はなにをしているのだろう。 夢を見ている、夢から覚める、また夢を見る。 現実とはどこに、どのようして、存在しているのか。 或いは今も、誰かの夢の中に、僕と君たちは存在しているのかも知れない。その夢を見ているの…
虹、その存在を私は信じている。あなたは信じているの? あいつはたまにしか顔を見せない癖に、顔を見せる時はいつも空が晴れる。同じようにして、私の心の曇りの合間に、少し虹が見える。虹を見た時、その麓のことを考える。虹はどこから始まり、どこで終わ…
空を見上げると、私は自分が溶けて行くのが分かる。そのままにしておくと、私はふっと消える。痕跡を隠すようにして、そこには風が吹く。何事も起きていない、そう言いながら世界は回る。そういう人がこの世界には、何人いるだろう。同じ空を見て、同じ気持…
・即ち待ち惚け 私は待ち人が好き、なんだってそう。何かを、誰かを待っている人、私もそう。電車を待つ人、タクシーを待つ人、ヒッチハイクをする人。凄く良いと思う、待てばいいと思う。私は流れに身を任せるだけ、そういう生き方もいい。 ただ待つ、その…
夜の匂い、滲む額の汗、小川のせせらぎ 人混みの喧騒、若者の話し声、屋台の白煙 ここは夜祭り。 屋台のどこかに、幻のラムネが売られている、それは飴色。 月のビー玉が入っており、味は蜂蜜に近いが、ねっとりしておらず。 乾いた喉をすっと優しく、潤して…