霧の掛かった峠を抜けると、そこには見たこともない大雲海が広がっていた。
山頂から見下ろす眼下には、雲海が広がっている、時刻は24時を少し回った所。
なみなみとした雲が月明かりに照らされて、ゆっくりと流れて行く。
私はそれを見て、綿あめを嬉しそうに頬張る子供を思い浮かべた。
路肩の茂った木々から、今にも人外の類いが出てきそうな黒々とした山道を抜けると、そこには空の秘密が隠されている。
遥か地平線まで続く大雲海、それを見た時、かつて天使だった彼女は雲に飛び乗って流れて行った。
ここにはなにもない、下界のような地獄とは違い、欲望も快楽も差別も存在しない。
この地獄を抜け出すことができる、秘密の抜け穴、それは私の中にある。
みな私の中を通ってここへ辿り着く、ジョン・F・ケネディもBEATLESも伊藤博文も。
ここはあの世、などという優しい世界ではなくて、自分が辿り着きたい場所に行く。
ここは出発点にすぎない。
船を送り出す港のような、飛行機が飛び立つ空港のような、自宅の玄関を開ける瞬間のようなもの。
漂い続けるこの世界。