鍵のない図書館

好きな食べ物はバナナのパウンドケーキ

霧に沈む喫茶店

 

大通りから脇道に抜けると、喧騒は遠のいた。

人混みを離れ、森の香りが漂ってくる小道を進む。

雨上がり、雨粒が滴る小人の道を抜けると、妖精が訪れるような珈琲店がある。

 

木々に囲まれたその店は、人間界を抜け、どこか異国へ通ずるような佇まいである。

ちりん。と控えめな音を出す戸を開けると、珈琲の心地良い香りが鼻をついた。

僕は窓辺の二人がけの席に座り、胸を撫で下ろす。

 

店内には古めかしくも、どこかお洒落なイスとテーブルがあり、どれも年期が入っている。

壁に掛けられた古時計が、頑張りながら時を刻んでいる。

橙色の明かりが眠気を誘う、雨が降ってきたのか、ざぁっという雨音が店内に響く。

 

.....ぼーん、ぼーん、ぼーんという古時計の音で目が覚めた。

いつの間にか眠ってしまっていたようである、テーブルには貴族が宝物にしていそうなティーカップに入った珈琲と、ショコラケーキが置かれていた。

 

精算台の奥、人がいそうな気配がある。

角砂糖とミルクを入れた珈琲を啜ると、頭が正しく覚醒する。

ショコラケーキを小さく切って口に頬張ると、ただただ甘い、それだけが舌の上で溶ける。

 

足下にこつん、となにかが当たる感覚がして下を覗くと、どうやらこれは足踏みミシンであったようである。

足下にある板を踏むと、左側ある輪っかが回転する仕組みになっている。

僕は試しにその板を踏んでみる、するとぽんっと目の前にあるはずの珈琲とケーキが姿を消して、人参のスープとタコライスに変わっている。

 

※ 後書き

また続きを書きます、最近更新が滞っておりすみません。