鍵のない図書館

好きな食べ物はバナナのパウンドケーキ

衝動は赤、人魚のラーメン。

・味のする文章を作ろうと思う、今日はそれだけ。

 衝動は「赤」これは伝わるだろうか、伝わらない人はセンスがある。

君は「人魚のラーメン」を食べたことはあるか、僕はこれから食べるのかも知れない。

人魚のラーメンとは、なにも人魚から出し汁を取っているわけではない。

 

人魚の音色を聴いた者が食べられる、幻のラーメンなのである。

 

注文したラーメン、運ばれてきたのは空の器だった。

僕は思わず店員を見る、そこには誰もいない。

空席に人の気配がある、姿は見えない。

 

厨房からは換気扇が回る音がする、店内からはJazのような音色がする。

僕はここで一人、もう一度、器を確認する。

そこには海がある、今、地平線に夕日が沈もうとしている。

 

まるで誰にも見られぬように、そっとラーメンの器の中で、夕日が沈む。

 

「人魚のラーメン」と、Jazの音色に混じって声が聞こえた。

隣のカウンター席に一人の女がいる、こちらを見ずにラーメンをすすっている。

横顔の美貌には似合わず、豪快にラーメンをすする。

 

夕日が海へ沈む、店内の照明が落ちる。まるで落雷を受け、停電になったように。

Jazの音色が聴こえる、ラーメンをすする音がする、器が豆電球の色を放つ。

今、今じゃないといけない、僕はラーメンが食べたい。

 

お腹が空いてきた、空の器になにを入れる。

醤油ラーメンか、豚骨ラーメンか、味噌ラーメンか、まぜそばか。

トッピングはどうする、チャーシューか、ニンニク多めか、味付け海苔か。

 

この空の器には、あなたの食べたいラーメンが入る。

今まで食べてきた中で、とびっきりのラーメンが。

あなたの空腹、あなたの欲求を満たすラーメンが入る。

 

額に滲む汗、口の中に広がるニンニクの香り。

水を飲む喉の音、レンゲにすくったスープ。

頼んだご飯はまだ来ないのか、麺を噛む感触。

 

「人魚のラーメン」

 

巨人が使うようなレンゲが現れる、ラーメンをすする音がする。

僕はそのレンゲにすくわれて、大きな口の中へと吸い込まれていく。

 

しばらくすると、僕の目の前にラーメンが運ばれてきた。

注文した味噌ラーメン、味付けタマゴ付き。

 

店内にはJazの音色が響く、店員の顔を見ると、どこかで見たことのある横顔だった。

調味料は入れない、いただきます。