あの暗がりに或る扉の向こう側、そこには何が或るのだろうか。
月の裏側か、空の裏側か、心の裏側か。
「夜」はまだ覚めぬ、覚醒した世界へと繋がっていると思う。
海面に揺れる朧月と、月を目指す竜の鱗。
その甘い海の中を、儚げに溺れていく少女。
深い海底の底に眠る、かつて栄えた人類の痕跡を見た。
起こしてはならない人、そっと手を握る。
硝子の様に砕け散る、その少女の心は、誰にも気付かれることはなく。
暗く冷たい海の底で、長い時の中、かつて私だった者の手を握る。
電車の汽笛、自動車の急ブレーキ、青に変わらない信号機。
少しずつ、そして確実に壊れて行く音を、夜は許容する。
遠い所に、手を握っていた頃に、思いを馳せる。
まだ、空を美しいと思っている。
灯台は夜の海を、鈍く照らしている。
そこにいる誰かが、名も知らない誰かが、私を待っている。
まともな言葉では表現不可能な私の色、人として形を保つことができている。
始まりの一歩にはいつも、影ができていた。
これが私の望んだ世界だと頷けた時、モーセの様に海を割ることができる。