鍵のない図書館

好きな食べ物はバナナのパウンドケーキ

指揮者がいないオーケストラ

季節外れの暑さに、春は砂糖菓子のように溶けていく。

もし言葉に手足が生えていたら、重力に逆らって、心まで届くだろう。

春の終わりか、夏の始まりか、知らせるように鳴くカエルの合唱が届く。

 

景色を、光の線のような残像で捉える。

果てしない道を見るように、ただ見ていた。

汚いことばかり教えられて、美しいことは見付けなきゃいけない。

 

家出をする少女が持つような、ビー玉のような儚さと、強さ。

大人に対して抱いていたあの感情を、忘れていることに気が付く。

どこでどのように変わっていったのか分からないまま、ブラックホールに吸い込まれる。

 

地球を横目に見ながら、ここではない月に飛んで行きたいと思う。

忘れ物を取りに帰った時、偶然見付けた宝箱。

埃を被った箱を開ける時、大人になっていたことに気が付く少女。

 

記憶を覗かれるような、夕暮れの香り。

忘れ去られた物たちは、今と未来を見て、呼吸を始める。

事柄の中に隠された優しさを鮮明に感じた時、息が詰まる。

 

時空を越えてきた思い、仕舞い込んだ熱量が、私の胸に届く。

誰かが付けていたキーホルダー、差出人不明の手紙と。

見付けた枯れない花、見ていた小さな星、すべては一つの所に繋がる。

 

ウルトラマンの人形を手に取って、私は怪獣を倒しに行く。

私には活動限界があり、怪獣はだいたい強い。

美しいことを守るために、私はまた、星へ還る。

 

誰もいないコンサートホールで、指揮者がいらないカエルの合唱を聴きながら。

これが完成すると、美しくならないのだなと思う。

 

銀河鉄道が走る夜に、なにかを待つ。