鍵のない図書館

好きな食べ物はバナナのパウンドケーキ

誰も知らない扉の開け方。

缶珈琲を飲み終わった後、煙草を吸い終わった後、美しいことを見た後

瞳の奥に小さな灯火を携えて、一歩を踏み出す時

その一瞬だけ、自分を好きになれる。

 

○か✕か、分からないまま歩み進めてきた今

私の目の前にはようやく、大きな観測所が現れた

未来と過去から来る電波を受信して、なんとなく、ただそれだけで。

 

幾度も書き加えてきた世界地図に、あてもなく書き加える

これは別に宝の地図でもなければ、未来予想図でもない

小さな鏡を取り出して、自分の顔を見るような物。

 

天国か地獄か、そんなことはどうでも良くて

ただ楽園があるのであれば、私の手を引いて連れて行って欲しい

そこで私は何も考えず、ひたすらに透き通るような女の子になるだけ。

 

創造力を働かせれば、あらゆる夢が叶う場所で

この世以外のことが書かれている本を読みながら、ある電車を待つ

禁断の飲み物が売られている自動販売機と、駅のホームで。

 

淡く視界が揺れる、対面のホームには鮮やかな一人の私

隣に腰を掛けて楽しそうに話しをする、彼女の姿

空を見上げると、私を呼ぶ声が聞こえる。

 

リズミカルに手を叩きながら、電車を待つ、彼女達とは違う電車を

飛べない私をあの場所へ誘う歌と、鼓動の音

そして電車が来る時、手にした切符をに握り締めて、乗車する。

 

私が沢山乗った、私の中に私は揺られる。

私個人が消えてなくなる時、後に残るのは風の中に残る、私の香り。

 

時にはそよ風に、時には嵐に、時には無風に。

 

そうして風になれば、彼女達の元へ香りを届ける

まるでピアノの音のような、綺麗で明確な香り

それを感じた時に、私達の世界も同じように鮮やかになる。

 

なんだろう?なんて、彼女達は首をかしげる

私はくすりと笑って、通り過ぎるだけ

そういう明確ではないけれども、ほのかに感じる存在。

 

ほら、見渡せば変わらないものばかり

変わって行くのは、変化して行くのは私達だけ 

後のことは空は空としてあり、海は波を打ち、花は花として咲く。

 

空虚な空間で息をして、誰も知らない扉の開け方を探る

古びた鍵穴に目を凝らせば、見えてくるものは、ある一人の男の背中

柱の陰に隠れていた子供が持っていた鍵、何かを託された私の手の中。

 

鍵を開ける時、異界の音が聴こえた時、男が振り向いた時

私は私の器に戻される、まだ早い。そんな言葉を耳にして

意識が引きずり戻される、またおいで。といっていたあの男

 

一瞬に見えたのは、波打ち際に流れ着いた私の姿

そこに近付く彼女の姿、彼女は私の体を抱きかかえて

うつむき加減に砂浜を見ながら、観測所へと歩いて行く......。