鍵のない図書館

好きな食べ物はバナナのパウンドケーキ

階段

 

緩く眼が覚める、置き時計を見るとa.m.2:00を少し過ぎる所だった。

その日の夜はやけに生暖かい、額にじんわりと汗をかいていたのが分かる。

暑さに沈む寝室、そよがないカーテン、冷えたお茶を飲もうとリビングへ下りる。

 

.....階段を下りる、下りる、下りる。その時、私はこれが夢なのではないかと思う。

階段が終わらないなど、起こり得ないからである。何段も何段も何段も、同じ階段を下りている。果たして下りているのだろうか、同じ所で足踏みをしているだけではないかと思ってしまう。

 

この階段はどこへ続いている、その先は真っ暗で、夜の底へと誘う。

人が見てはいけないなにかが、あるのではないか。これ以上下りてはいけないと、体が声を上げていることに気付く。私はなにか、鬼気迫るものを肌で感じる。

 

「うぅ...」という低い呻き声が聞こえたその時、ドンッと物が落ちるような音がする。

 

リビングのドアが僅かに開いている、私はドアノブに手を掛ける。

静かにドアを開け電気を付けると、そこにはいつものリビングが広がっている。私は階段を普通に下り、リビングへ辿り着いたのである。自分に寝ぼけているのだと、そう言い聞かせよう。

 

胸を撫で下ろし、お茶を飲む。リビングを出ようとした時、急に電気が消える。

私は驚いて、急いで寝室へ戻ろうとすると、何故だろう。まるでスローモーションのように体が言うことをきかない。背後から誰かが近付いて来るのが分かる、早く逃げなければと精一杯体を動かすけれど、動きが遅い。鼓動が高鳴る、階段を誰かが下りてくる音がする、そして私はぐいっと後ろ髪を引かれてしまう。

 

.....眼を開けると、私は寝室のベッドで寝ている。

思わず溜息をついて、鼓動を整える、とても嫌なことが起きたようだと思う。

時刻はa.m.2:00を少し過ぎる所。

 

ふいに枕を見ると、見たこともない真っ黒い枕の上に、大量の髪の毛があった。