・これは夜更けに、ある山道を通っていた時のことである。
季節は初夏、夜を涼しいと感じるようになった頃。その日は一日車を走らせていたのだが、やけに動物の骸が多かったように思う。見る度に、胃の底に重い鉛があるような気分になる。
しばらく峠を走らせていると、前方に車が一台、走っているのが見えた。SUVのような気がする、見えたり見えなかったりするものの、少しずつ近付いていたようである。街灯が無いために、ブレーキランプの灯りは分かりやすかった。
そうして走らせていると、あっという間に追いついてしまう。
.....長い直進に入る、車が揺れる音がする。少し開けた窓から、風が手を入れる。前方の車のブレーキランプが、点灯する。頭の中で逡巡する「どうして、なにもない、譲ってくれる」その答えは以外なものだった。
右折のウィンカーを出し、なにかをかわすようにして動いたのである。だが後ろから見る限りでは、そこにはなにもない。何をかわしたのか、分からない。同じ場所を走らせたが、かわすようなことはなかった。
辺りは森の中、木々で月明かりが遮られているため、ライトを消したらなにも見えないだろう。気味を悪く思ったその時、突然ブレーキが踏まれる。私も慌てて急ブレーキを掛けるが、なにかに乗り上げるような音がする。
.....ゆっくりと眼を開けると、前方の車に微かに衝突していたが、可笑しい。
そのSUVは、まるで何十年も放置されたように年期が入っている。枯れ葉を被り、所々に蔦が絡まっている。車内は埃を被り、後部座席にはチャイルドシートが見える。私は一気に気味が悪くなり、血相を変えて車を下がらせ、道を戻る。
すると先程、SUVがなにかをかわした所に差し掛かる。
路肩には家族だろうか、三人ほど暗闇の中で立ち尽くしている。
私は突き刺すような視線を感じる、額を汗が伝わり、今にも吐きそう。
決して眼を合わせず通り過ぎる、異常なものを感じていた。
鼓動が落ち着いて来た頃、ようやく随分と離れることができたようである。
.....ふとルームミラーを見ると、後部座席に誰か乗っている。
◇後書き
夏に差し掛かって来たので、少し肝が冷えるようなものを書こうと思ったわけです。
書きながら、私自身気分が悪くなってきてしまいました。