鍵のない図書館

好きな食べ物はバナナのパウンドケーキ

子供の惑星

 

流れ着いた小さな島、椰子の木がぽつんと塩風にそよいでいる。

砂浜は陶器のように白く、そしてどこか温かい色を持つ。

辺りは海に囲まれていて、それ以外はなにもない、あってはならない。

 

私が目を覚ました時、まず海の香りが鼻に付いた。

ずぶ濡れの体を起こすと、空は夏のように青く、海はどこまでも続いている。

ここに私一人、立ち尽くす。世間や社会から離れて、私はどこへ来たのだろうか。

 

そよ風が体を包む、揺れる椰子の葉。

陽射しを見上げると、陽光を透過する私の体。

雲一つ持たない空に漂う、誰かの願いが灯る鳥。

 

黄金のラムネを売る、無人の屋台。

冷えたラムネを手に取り、火照った体を潤す炭酸。

汗が頬を伝わる、ラムネの中に沈没する硝子玉、そこに映る私の赤い瞳。

 

大きな砂時計から静寂の底に砂が落ちる、この島はそうして大きくなる。

遠くの海から鯨のうなり声が聞こえる、彼等は外の世界を食してきた。

私の姿は誰にも見えない、あとどれくらいだろうと砂時計を見る。

 

幽霊船が海に浮かぶ、乗組員はいないけど、白く大きな帆が張られる。

航海士が見ていた地図、すべてを知り得た船長と、ある一人の乗組員。

大人たちが作り上げた世界はすべて海へ沈み、残された子供の世界。

 

そこに存在するものこそが、すべて本当の形をしている。

嘘、偽りのないありのままの形で、実体が存在している。

浜辺に流れ着く硝子の靴、その中にあるのは濡れない手紙。

 

知らない誰かが書いた手紙、「私は此処にいる」

手紙の向こうにいる人は、繋がりを持ち得ない私に、自己の存在を示してきた。

だから私も私の存在をこの世界に示す、世界に足跡を残しに幽霊船へ泳ぐ。

 

そこに広げられている地図は、手紙の送り主を示している。